報徳教育部(今月のうた・ことば)

[2016.12.2]

今月のうた・ことば

十二月のことば 
 無くてよい人にはならで世の中に
        無くてはならぬ人となれ人

 先日、本校OB高橋公一氏をお招きしての講演会がありました。高橋氏は卒業後、京都産業大学に進まれ、その後大企業の野村証券に就職されました。東京大学、京都大学、早稲田慶応が当たり前、優秀な中でも優秀な人物が集まる組織ながら、同期で出世頭であり、現在では常務役員としてご活躍されています。社会人として成功するために必要な心構え、学生時代の思い出等、大変有意義なお話をうかがいました。
 その中で印象に残ったもののひとつが、「野村証券では、四つの『ジンザイ』がある」というお話です。一つ目は「人罪」、そこにいるだけで罪となる、迷惑となる人間です。二つ目が「人在」、指示待ちで、ただいるだけの人間です。三つ目が「人材」。これは日常用いられている語と同一の意味です。最後が「人財」。こうなってこそ、社会に貢献できるという趣旨でした。
 この話を聞いていて思い浮かんだのが、今月のことばにあげた道歌です。この歌は、校祖大江市松翁によるものです。世の中でいない方がよい人間にはならず、いなくてはならない人になれという、まこと平易な内容の歌です。市松翁は、我々の先輩方に、繰り返しこの話をしていたそうです。以前本紙でも紹介しましたが、翁は「ちぬのうらびと(知怒乃有楽人:怒りの真の意味を自覚すれば、少しのことに腹を立てることが、自他をきずつけるつまらないことと知り、そこにおのずから楽しみが生じてくる)」と号し、毎月学内で「なみのおと」という小紙を配布し、生徒を薫育していました。下に紹介するのは、その一片です。「五等人格表」となづけられたこの表、左から順に、世の中に「必ず有ってはならぬ」人間、「有るよりは無いがよい」人間、「あってもなくてもよい」人間、「無いよりも有るがよい」人間、「必ず無くてはならぬ」人間と書かれています。今月のことばは、一等の人格である世の中に「必ず無くてはならぬ」人間となれ、というものです。思えば、私自身も中学生のときに、同じ内容を、違う言葉で聞いた覚えがあります。なぜか、いまでもそのときの光景を忘れられません。この種の話は、いつの時代でも、耳に残るものなのでしょうか。
 さて、今の自分は、どれにあてはまるか考えてみたとき、「自分は絶対に一等だ」と思える人は、なかなか少ないことでしょう。あるいは、家庭、クラス、クラブなど、各々の「世の中」において、必要か、必要でないかは自分が判断するものではないのかもしれません。「○○君がいてくれてよかったよ」「君がいないと始まらないよ」といった他者の言葉こそが、そうと気づかせてくれるのでしょう。

大江市松翁の教えを記した「なみのおと」より
大江市松翁の教えを記した「なみのおと」より

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