報徳教育部(今月のうた・ことば)

[2017.9.4]

今月のうた・ことば

九月のことば 
 もと福と禍と同体にして一円なり
   吉と凶と兄弟にして一円なり

 今月の言葉は『二宮翁夜話』から採りました。この前の章では、善悪は相対的なものであることが説かれています。「見渡せば遠き近きはなかりけり おのれおのれが住処にぞある」の句も、ここで見て取れます。続いて、幸福と災禍も一体であるというこの章では、『涅槃経(ねはんぎょう)』という経典の訓話が引用されています。

 ある家に、とても美しく、気品にあふれる女の人が訪ねてきました。その女性は「私は功徳天(吉祥天:きっしょうてん)という福の神です。あなたに福を授けに来ました」と言います。家の主人は大喜びで、家の中に招き入れました。 
 ところがその後から、もう一人の女性が入ってこようとしています。こちらのほうは、見るからにみすぼらしい醜い女性でした。
 「あなたはどなたさまでしょうか」と主人が聞くと「私は黒闇天(こくあんてん)といいます。私のいくところは、必ず災難がおきる貧乏神です」と答えました。貧乏神に居座られてはたまりません。主人は速やかに帰ってほしい旨を伝えます。
 するとその黒暗天は言いました。「先ほどの福の神である功徳天は、私の姉です。私たち姉妹はいつでも一緒です。姉をとどめたければ、私もとどめなさい。私を追い出すのなら、姉も追い出しなさい」と。
 主人はしばらく考えて、二人とも出て行ってもらうことにしました。

 人生は、自分の思い通りなることばかりではありません。むしろ、思い通りにならないことのほうが多いでしょう。しかし、それは避けては通れません。真の幸福のためには、まずどんな困難もまるごと受け止める覚悟を決めることが必要なのでしょう。

←戻る

ページトップ