報徳教育部(今月のうた・ことば)

[2017.10.6]

今月のうた・ことば

十月のことば


まく種のすぐにそのまま生い立ちて
             花と見るまに実のる草々

 今月の言葉は「二宮先生道歌選(佐々井信太郎著)」からの引用です。
 この歌の大意は「まいた種がすぐに生え育って、花が咲いたと思う間にはやくも実になった。」ということです。この歌は見たままの草木における生まれては育つことを永遠に繰り返す生育輪廻(りんね)の現実のすがたであって、目の前の実際を歌った叙事詩のように読めます。ところが、この歌には極めて広く深い含蓄があります。「まく種のすぐに」というのは時間的に速(すみ)やかにという意味と、米の種から米草(稲)へと間違いなく生育し、発展するという意味とがあるのです。
 すなわち、米の種をまけば米の草が生じ、米が実り、麦をまけば麦が生え育ち、麦が実るのです。また、秋の実りを終えても、春が来れば、また新しい芽生えを迎えます。芽生えれば苗となり、実となります。止(とど)まることなく生の営みを繰り返しつつ、しかも麦は麦、米は米と輪廻して、米は決して麦とならず、麦は米となりません。止まることなく、しかもごまかしを許さないのが万象の姿ではないでしょうか。
 人と生まれたからには、何らかの足跡を残しておきたいと願うのが人情であるならば、この歌はその手掛かりを教えているのかも知れません。人の道にまく種はその人の思いをそのままに育ちます。善意の種をまけば善意の苗が育ち、幸せの花が咲く。より良く生きたいと願うときに、自分だけではない周りの人たちの幸せをも願う心の種をまきたいものです。

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