報徳教育部(今月のうた・ことば)

[2019.4.2]

今月のうた・ことば

四月のことば
奪うに益なく、譲るに益あり

 「報徳の四綱領(柱となる考え)」の中に、「分度・推譲」という言葉があります。分度とは自分の置かれた立場や状況をわきまえ、その分限を逸脱することなく生活を営むことです。分度といえば身分や規律といったイメージを伴いますが、特に説かれているのはそれぞれの収入の範囲での支出をわきまえて、生活に破綻をきたさないようにするという経済活動で、家計にとどまらず、村や藩、国家に至るまでの財政運営に及ぶ報徳仕法の概念です。ただ、中学や高校の生徒である皆さんは直接の経済面でなくとも、自身の日々の生活において考えるとよいでしょう。日常の中でも「分度(立場)をわきまえて、守る生活」の必要は理解できると思います。
 この「分度」に「推譲」という考えを併せて説いたところに報徳思想の真髄があるように思います。「推譲」とは文字通り推し譲るということですが、その譲るための余裕は「分度」を守る生活から生まれます。尊徳先生は特にこの「推譲」ということを強調しました。自分や家族、子孫への貯え(自譲)にとどまらず、他者や社会のために譲る(他譲)、人々が互いに推譲しあうことでみんなが幸せを感じる世の中を望んでいたのです。限られたものを奪い合うのではなく、推譲しあうことでもっと大きく増やそう、そして皆で少しでも豊かになろうという実践です。尊徳先生の言葉に「金や穀物ばかりの譲りではない。道も、言葉も、功績も、すべて譲らねばならぬ。」とあります。つまり、経済活動に限らず、日々の生活の中の人との関わり、社会との関わり、あらゆる場面に推譲の心を持つことで自分を含む皆が人間らしい幸福な社会に近づくことができる、ということでしょう。
他者に譲ることを行っているうちに、いつかは自分が譲ってもらう、自分に返ることもあります。分度を守って勤め、余裕を生み出し推譲するという積極的な実践が豊かな社会への道なのかもしれません。

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